毎朝、目が覚めたらまずコーヒーを淹れる。20代のころからずっと、それが私の一日の始まりでした。香ばしい香り、立ちのぼる湯気、最初の一口。特別なことは何もないけれど、この小さな儀式があるだけで「さあ、今日も始まる」と思えたんです。コーヒーは、私にとってただの飲み物ではなく、30年連れ添った相棒のような存在でした。
眠れない夜が、増えてきた
ところが、50代に入ったころでしょうか。夜、布団に入っても目が冴えて、眠れない日が増えてきました。最初は寝る前にスマホを見過ぎたせいかな、と気にも留めず。でもある日、ふと思い当たったんです。——もしかして、昼に飲んだコーヒー? 若いころは夜に飲んでもすぐ眠れたのに、いつの間にか、カフェインが体に長く残るようになっていたようです。「私の体、ちゃんと歳をとっているんだな」。コーヒー一杯で、自分の変化を突きつけられた気がしました。
やめると決めたら、体が抵抗した
思いきってコーヒーを卒業しよう——そう決めてからが、実は大変でした。
朝起きても仕事中も、とにかくだるい。ずっと疲れてる感じ。頭もガンガンと痛む。最初は何の頭痛か分からなかったのですが、コーヒーを一口飲むと、うそのように治まる。「ああ、これはコーヒーをやめたせいだ」と気づいたときは、正直「やめるのをやめようか」とかなり悩みました。結局、痛み止めを飲みながらどうにか乗り越えました。もしまた飲み始めたら、あの頭痛をもう一度経験することになる——そう思うと「もうコーヒーは飲まなくていいや」という気持ちのほうが強くなっていきました。
午後の眠気も、つらいものでした。それまで居眠りなんてしたことがなかったのに、ランチのあと、仕事中にウトウト……。温かいミントティーをマイボトルに入れて持って行って、眠気がきたら湯気を鼻から吸い込んで、なんとか耐えていました。
こんなに眠れる日が、来るなんて
そんな日々を過ごしていたころ、生活にも変化が訪れました。
仕事から帰ると「早く布団に入りたい!」と、猛スピードで家事や寝支度をすませ、夜10時にはもう就寝(笑)。そして朝まで、ぐっすり爆睡。——こんなによく眠れる日々が来るなんて。
振り返れば、忙しく働いていたころの私は、睡眠時間を削って、あれもこれもと回していた。コーヒーを手放して、気づきました。「私、けっこう頑張ってきたんだな」ようやく自分をねぎらえた気がします。
白湯が、甘い
おまけに、思いがけない発見もありました。
コーヒーをやめた後、朝いちばんは白湯を飲むようにしていました。しばらく経ったころ、朝の白湯が、なんだか甘く感じるんです。「あら?マグカップがちゃんと洗えてなかったのかな?」と、洗い直してもう一度入れてみたほど。でも、やっぱり甘い。不安になって調べてみたら、カフェインをやめると味覚が変わることがあるのだとか。体って、不思議ですね。歳を重ねても、こんなふうに新しい発見があるんだ、と少し嬉しくなりました。
コーヒーはやめたけど、カフェには行きたい
ちなみに、私が完全に手放したのは「カフェインの入ったコーヒー」だけ。カフェに行くことは、今も大好きです。
コーヒーの香りに包まれながら、ゆったり本を読む。あの贅沢な時間だけは、どうしても手放せません。だから私は、デカフェやハーブティーを頼んで、変わらずカフェの空気を楽しんでいます。
コーヒーはやめたけど、カフェには行きたい。——これが、私のささやかな”抗い”です。
手放すことは、選び直す練習
歳を重ねると、これまで当たり前だったものを、少しずつ手放していくのかもしれません。でもそれは、寂しいだけじゃない。「今の自分に合うもの」を選び直していく——そんな練習なんだと思います。
コーヒーの卒業は、私にとって”老いと仲良くなる”最初の一歩でした。
あなたにも、最近そっと”卒業”したものはありますか? これから少しずつ、そんな小さな変化を綴っていけたらと思います。よかったら、一緒に練習しましょう。
年齢によるからだの変化を受け入れながらも、ときどき抗います。そんな体験エッセイを他にも綴っていますので、よかったらお楽しみください。


